直木賞受賞作の「サラバ!」を発表してから、2年経って出された待望の新作、西加奈子さんのi(アイ)。
まずタイトルからしてちょっと不思議な感じですが、現代の世界について色々と考えさせられる小説でした。
そんな、西加奈子さんのi(アイ)のあらすじと感想をレビューします。
西加奈子 i(アイ)のあらすじ
シリアで生まれた女の子は、赤ん坊のときにシリアからニューヨークに渡り、ダニエルと綾子夫婦の養子となりました。少女はアイと名づけられ、両親の深い愛のもとに育てられます。
小学6年生の時、父の転勤により来日。
〈選ばれた自分がいるということは、選ばれなかった誰かがいるということだ〉
アイはずっと、自分の恵まれた環境を受け入れることができずにいます。罪悪感から孤立感を深めるアイは、日本の高校に入学します。
入学式の翌日、数学教師の言葉に強い衝撃を受けるアイ。
「この世界にアイは存在しません。」
直木賞受賞作『サラバ!』から2年。待望の西加奈子さんの新作長篇『i(アイ)』は、現在進行形の切実な思いをぶつけた渾身の書き下ろし小説です。
西加奈子 i(アイ)の感想・レビュー
西加奈子さんの「サラバ!」に続き、読み終えた後の感動は計り知れません。
この「アイ」という作品には、数え切れないほどの世界中で起きた悲劇が記録されています。アイはその悲劇や死者をノートに綴ります。
自分が何事も無くこの本を読んでいる「今」は一体何なのだろう・・・読み手もアイの心に引き込まれ、揺さぶられ、考えさせられます。
アイは、世界で起きている悲劇を記録するためにノートにペンを走らせながら、自分の置かれた環境に罪悪感を覚え、心を痛めます。
アイの気持ちを理解し、共に苦しむ読者もいるでしょう。
もどかしさを感じる読者もいるでしょう。
どうしてこんなにも優しいのだろう、どうしてアイはここまで自分を追い詰め、苦しまなければならないのだろうか、と・・・。
西加奈子さんの作品観が感じられるインタビューがあります。
「エジプトに住んでいた小学生の頃、靴をはいていないエジプシャンの子たちと遊びながら、自分だけいい服を着ているのがずっと恥ずかしかったんです。
なんで自分だけ大きな家に住んでいるんだろうと思っていました。その気持ちが強いのかもしれない。
もうひとつ強烈に覚えていることは、みんな異分子であるはずの私に本当に優しかったんです。
クリスマスにはイスラム教徒の人たちも”メリークリスマス”って声をかけてくれました。それは彼らにとって自分たちの神を冒涜することじゃないんですよね。
自分たちは譲り合える、ということなんですよね」
引用:(ポプラ社『i』刊行記念インタビューより)
アイディンティティが揺らぐアイ。何かに属したり、頼ったりすることで自分を保っていきます。
それは数学であったり、原発反対デモであったり、唯一無二の親友、ミナであったり・・・。
「問題はさ、あんたがどうしてそんなに子どもを欲しがっているのかってことだよね。」
引用:「アイ」(本編P195)
子どもを持つことを望んだことがある人間として、アイが自分の子どもが欲しいと願い様々な事象に出会っていくストーリーは多聞に感じるものがありました。
子どもを望んでもなかなかできず、流産するアイ。
愛するパートナーが居ながら、男と関係を持ち子どもを身ごもるミナ。
改めて妊娠、出産は、女性にとって人生の大きな、大きな転機であることをひしひしと感じました。
今まで強くたくましく、頼りであったミナとの間に、妊娠を通して新たに知ることや感じることがたくさんたくさん出てきます。
「この世界にアイは存在しません。」
何度もこの言葉が繰り返されながら、アイはゆっくり、ゆっくりと前に進んでいきます。
自分とは・・・と誰しもが一度は考え、立ち止まったり、迷ったりしたことがあるかと思います。
アイは、それを究極に繊細に、聡明に体現している存在です。
人は誰しも、究極は孤独。
しかし、自分は両親の関わりにより存在し、生きている中で必ず他者と関わっていきます。アイの周りには、アイを支え、愛してくれる人が居ます。
あなたの周りにも、必ず居ます。自分もいつか、そんな存在になりたい。
「この世界にアイは、存在する。」
世界でたったひとりの自分との物語。
是非読んでいただきたい名作です。
「西加奈子のi(アイ)の感想とあらすじ・レビュー」まとめ
以上、西加奈子さんのi(アイ)の感想とあらすじ・レビューでした。
もしこの記事を読んで少しでも小説に興味を持ったのであれば、購入されることをオススメします。
私のレビューだけでは伝わらないこと、実感いただけると思います。